株式会社博多大丸
福岡市中央区天神1丁目4番1号
九州探検隊として海の環境問題の危機を「伝える」啓発活動から、「価値」を創り出す活動へ

福岡市天神で百貨店「大丸福岡天神店」を運営する「博多大丸」さん。ペットボトルのキャップを集める「ボトルキャップ ベア」活動をはじめ、早くから環境保全や社会貢献活動を行っている同社には、九州各地の自然保護活動などさまざまな取組を推進している「九州探検隊」というプロジェクトがあります。そんな「九州探検隊」創設時からの隊員の箱﨑さんにお話を伺いました。
まず、「九州探検隊」発足の経緯から教えてください。

「九州探検隊」は、博多大丸の創業65周年記念事業の一環として2018年6月に発足しました。これまで、博多大丸が地元福岡と九州のお客様に愛されてきた65年間の恩返しのプロジェクトとしてスタートしたのです。まだ知られていない九州・沖縄の魅力ある「ヒト・モノ・コト」を紹介することで、地域活性化の一翼を担えればと、九州・沖縄の119市を訪問し、現在117市から情報発信のアンバサダー(宣伝大使)認定を受けています。現在、隊員は8名で、自治体・事業者・生産者の方々と連携し、物産・観光・SDGsを中心にさまざまな取組を推進しています。
「九州探検隊」が環境問題に取り組むようになったきっかけは?

「見たことのない九州」を見つけようと、私たち隊員は徹底的に現場へ出向きました。そこで、多く耳にしたのが環境問題に関するお話でした。各地の魅力を発掘することが、同時に各地の抱える環境問題を知ることになったのです。それで、隊員の中から「環境問題に取り組んでみよう」という話が出て、いろいろ調べてみると、日本一海洋ごみが流れつく島が福岡県のすぐ隣の対馬だということを知りました。
現状を知るために現地へ視察に行ってみると、そこにあったのは海外からもたくさんのプラスチックごみなどが流れ着いた無残な海岸の姿でした。

2050年には魚よりも海洋ごみの量が多くなるといわれています。少なくとも海に年間で800万トンものプラスチックごみが流れ込んでいるのです。この量をジャンボジェット機に換算すると、なんと5万機分に相当します。毎年、海に5万機ものジャンボジェット機を沈めることを想像してみてください。海洋環境は悪化する一方だということが、よく分かると思います。現在、海を漂うごみの量は、総計約1億5千万トンにも達しているそうです。
世界中の人がこの現状を知り、一人ひとりがごみを出さないという意識を持って一斉に取り組まなければ環境は回復には向かいません。そこで、世界的な海洋ごみの注目スポットである対馬を拠点に、海洋環境の危機を世界に発信する活動を始めようと、2022年に対馬市と「SDGs包括連携協定」を締結しました。
具体的にどのような取組を行っているのでしょうか。
私たちは、廃プラをアップサイクルし、価値あるものに変えていく「プレシャスプラスチック」という世界的な活動に「プレシャスプラスチック九州」という団体で登録しています。廃プラスチックをアップサイクル(廃棄物にデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること)する活動に取り組んでいます。その活動を通して、対馬に流れ着いたプラスチックごみを使い、対馬に渡ってくるヤマショウビンという渡り鳥のアート作品を対馬の子どもたちと一緒に作りました。
また、博多大丸では以前からペットボトルのキャップを集める「ボトルキャップ ベア」を設置していましたが、2023年に対馬へ移設しました。ここで集まったキャップを使って子どもたちとツシマヤマネコをつくるなど、楽しく環境問題を学んでもらう活動から始めていきました。アップサイクル体験に参加する子どもたちは、いつも一生懸命楽しそうに作っていますね。

クリスマス時期は多くの方が来店されるため、そのことを活かし、まず2022年に「伝える」をテーマにした白いクリスマスツリーを作りました。対馬に群生する「ヒトツバタゴ」、別名「ウミテラシ」の白い花をイメージしたツリーで、白色系のロープなどの海洋ごみを飾りの中に組み込みました。「きれいなものとごみが融合している」インパクトにお客様もびっくりされて、非常に多くの反響があったため、これは続けていこうということになりました。
2023年は「つながる」をテーマに、プレシャスプラスチックの活動を利用して、「ボトルキャップ ベア」で集められたキャップをフラワーポットにアップサイクルし、ツリーのメインアイコンとして飾りました。
〈廃プラから誕生した小物の一例〉

2024年は、行動変容を求めていこう、みんな変わっていこうと、「チェンジ」をテーマに数多くの蝶が飛んでいるような世界観をツリーとして作り上げました。日頃から絶滅危惧種の蝶(ツシマウラボシシジミ)の保全活動をしている対馬高校ユネスコスクール部の皆さんと一緒に、主に対馬に流れ着いたプラスチックごみを使って蝶をつくり、生物多様性の重要性を訴えるデザインを目指しました。青い蝶(オス)にはチップが埋め込まれていて、スマートフォンをかざすと部員の皆さんからのメッセージが流れるようになっています。

2025年は、生物多様性のはかなさを世界に発進するために、グローバルな「立命館アジア太平洋大学サスティナビリティ観光学部」の5ヶ国の学生たちとツリーのデザインを考えました。11月8日が点灯式なので、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。
※参考:大丸のクリスマスツリー2025 点灯式イベント/11月8日(土)16時から実施 2025年のテーマは「Legacy(レガシー)」、多様な生き物たちとこれからも共に生きていけるように——自然という遺産を、未来につなぐ

取組の効果は?
九州から環境問題についてどんどん発信していくことは世界にむけてインパクトがあり、九州が注目されることになります。そこで各地のファンを作っていければ、九州探検隊が目指す九州全体の活性化に繋がっていくことになります。また、12月という重要な商戦の時期に、ツリーを見に多くの方が来られます。これは効果として非常に大きいだろうと思います。

百貨店として商品の魅力をしっかり伝えるためには、実際に自分で見て触れて、食べてみるといった現場主義が大切です。探検隊はいつでも、すぐに現場へ出向きます。対馬にも実際に行ってみて、海洋ごみの問題が他人事ではなく自分事のような意識になっています。人から聞くのと、実際に自分の目で見たり触ったり体験したりするのとでは全然違いますからね。実際に現場を見た隊員が先頭に立つことで、環境問題に対する社員への啓発活動にも効果があるのではないかと思います。
そのほかの取組があれば教えてください。
博多大丸ではレジ袋や紙製のショッピングバッグを有料化しています。その結果、使用量の大きな削減につながり、海洋プラスチックごみ問題や森林保全に貢献することができました。さらに、全館で使用するショッピングバッグと食品ポリ袋をすでに環境に配慮した包装資材に変更しています。
また、「ECOFF(エコフ)」といって不要になった衣料品・靴・バッグなどを 店頭にお持ちいただくとアプリクーポンか紙クーポンをお渡しする「持続可能な参加型プロジェクト」を8年ほど前から半期に1度行っています。引き取り総重量は年々順調に増えて、2024年度の実績は約34tでした。
その他にも、社内の職員食堂で出る生ごみをコンポストで堆肥化する取組などを行っています。
最後に、今後の目標や展望をお願いします。


海洋ごみ問題の深刻さを世界に発信していくことが大事です。博多大丸は、情報発信力や顧客基盤、有名ブランドやアーティスト・クリエーターとの繋がり、企画力、そして長年の歴史とブランド力を持っています。
これらを生かしながら、今後は博多大丸自体が単なる商業施設というだけでなく、
情報の伝達や世論の形成といったメディア(媒体)としての役割を持つことも必要ではないかと考えています。これまでプラスチックごみを中心に「伝える」という活動をしてきましたが、これを目に見えるものや「価値」に変えていく活動をスタートさせます。そして、2050年までに対馬を「世界最先端のサステナブルアイランド」にしていくことの一助を担いながら、対馬から世界に発信していくことは、とても重要と考えています。
会社・店舗情報

株式会社博多大丸
- 住所 福岡市中央区天神1丁目4番1号
- ホームページ https://www.daimaru-fukuoka.jp/
